(2022年12月18日投稿)

解説

コロナ禍においても、堅調な経済成長を成し遂げた台湾

台湾は、2021年の春までは、コロナ封じ込め政策に成功した国として世界から注目されていました。ちなみに2020年の日本においては、外国からの入国規制をなかなか実施しなかったわけですが、どの国よりもいち早く中国からの入国規制を実施したのが他ならぬ台湾でした。

しかし台湾は、2021年の5月から7月末にかけてコロナ感染が急増し、警戒レベルを3まで引き上げ、隔離規制を徹底することになります。そして8月以降は感染が収束し、隔離規制を徐々に緩和しました。

ただ、年が明けて、2022年に入ってからオミクロン株が爆発的に広がり、再び警戒レベル2まで引き上げることになります。しかし台湾は2021年と2022年にかけてコロナ感染が爆発的に増えたにもかかわらず経済は順調でした。それは大企業や半導体などのハイテク産業が大変好調だったことがあげられます。世界中がマイナス成長にもかかわらず、台湾は経済が好調でした。

特に2021年から2022年の間にコロナ感染者が爆発的に増えたにもかかわらず、強い経済成長を成し遂げており、最新の経済成長率(2022年4月~9月、2022年12月時点)は事前予想を上回る4.1%という高い成長率となりました。

地方選挙で民進党が大敗した理由

台湾では、2022年4月から9月にかけてオミクロン株の感染者が減少して規制緩和が進み、内需拡大が大幅に増えたため、経済成長率が大幅に増加したという理由もあります。

このコロナ禍において、4.1%という成長率は大変大きなものです。しかし、これだけの経済成長率を達成したにもかかわらず、地方選挙において、民進党は国民党に大敗してしまったのです。これはなぜでしょうか。理由は主に2つあると考えます。

1つ目は、大企業やハイテクは確かに好調でしたが、個人商店や中小企業のダメージが深刻だったことがあげられます。そして2つ目は、中国との取引減少になります。コロナ禍と中国との取引が減るというダブルパンチにより、個人商店や中小企業の倒産・廃業が急増しました。

欧米や日本では、コロナ対策として経済活動への規制をかけると同時に巨額の助成金や補助金を援助しましたが、台湾では欧米や日本と比較して極めて少ない資金提供しか行いませんでした。特に台湾の低所得者層や若年層への支援が極端に少なかったのです。具体例をあげれば、台湾では個人向けの助成金は5万円のみであり、事業者向けは3年間の無利子貸付金が45万円のみでした。これは他の先進国と比べて大変少ないことがお分かりと思います。

ではなぜ、民進党は他の国々が行ったような財政出動をしなかったのでしょうか。その理由の一つには、先ほども説明したように、台湾全体としての経済成長率が堅調だったという理由があります。しかし、それは大企業やハイテク産業のみであって中小企業や個人商店にとっては、他国と同様にコロナによる規制により客が大幅に減ってしまい、大きなダメージを被ったのです。

それから民進党は小さな政府を志向し、国民党のばらまき政策を常に批判してきました。そのため国民や事業者への助成金の提供をためらったという理由もあったと思います。このように台湾では、ハイテク企業や大手企業への対策は万全でしたが、商店街や中小企業そして若年層や貧困層に対しての対策は失敗してしまったわけです。

世界の国々では今、コロナが流行していても中国など一部の国を除き、マスクを外し、規制を緩めて、通常の経済活動を取り戻しつつあります。今、日本においても、コロナ感染が大変増えていますが、以前の緊急事態宣言のような厳しい規制は行っていません。

もし台湾が政府主導で警戒レベルを引き上げ、経済活動の規制を強めるなら、欧米や日本が行ったような、中小企業・商店街、低所得者層への対策はやはり必要だったのではないかと思います。

そしてこれは私の考えでもありますが、かつては台風の大被害や大震災が起きても、国や政府が国民全体に対して、厳しい経済規制まで行いませんでした。資金的な支援は行いつつも、経済の立て直しの中心は民間企業に任せていたのです。

やはり今回のコロナ禍においても、コロナ対策は国が主導して国民の経済活動を規制するのではなく、対策は民間の知恵に任せる部分も必要だったと私は考えています。そもそも、本来、自由な経済活動を国が規制してしまうのは社会主義思想そのものです。

社会主義国家の末路は皆様もご存じのとおりです。政府の判断一つで国民全体の活動を抑圧し過ぎないことは非常に大事なことであり、今、現実的にも世界中のコロナ対策において、規制緩和の流れに向かっています(日本においては2023年5月、コロナ感染症の位置づけを「5類感染症」とし、インフルエンザと同類の扱いにした)。

地方選の結果で、台湾が中国寄りになったと考えるのは早計

このことを踏まえると、民進党が負けた理由は、台湾の国民が中国寄りになったわけではありません。そもそも台湾の地方政治は国民生活と密着しているため、国防政策と関係がほとんどないわけです。実際に2018年の地方選挙においても国民党が大勝し、民進党が大敗しました。

しかし、その後の総統選では民進党の蔡英文氏が圧勝しました。そのため、地方選の結果が、「台湾が中国寄りになった」と決めつけるのは早計であると考えてよいと思います。しかし今回の地方選の責任を取る意味で、蔡英文氏は党主席を辞任しました。

次の民進党の党主席は、より保守的な人物

そして次の党主席選は2023年になります。次の民進党の党主席に最も有力な候補は、現在の副総統である頼清徳氏になります(2023年1月15日、頼清徳氏が民進党の党主席に正式就任)。では、頼清徳氏とはどのような人物でしょうか。ここで頼清徳氏の人物像を物語る興味深い発言を紹介します。数年前の立法院での発言において、頼清徳氏はこのように述べています。

「私は台湾独立を主張する政治家だ」

さらに2019年、来日したときの講演においては、次のように発言しています。

「中国との平和協定を絶対に結んではならない」

この発言を聞く限り、頼清徳氏は、蔡英文氏よりもはっきり物事を主張し、強い台湾独立志向を持っていることがわかります。そのため台湾独立派の熱い支持を受けています。もし頼清徳氏が民進党の新党主となったときは蔡英文氏のときよりも、よリ保守的な政党となる可能性が高いと言えます。

私は2024年の台湾総統選挙においても民進党候補者、頼清徳氏が次の台湾総統に就任することを心より願っています。